チェーン企業では、新しい店舗を1店出すまでに、いくつもの候補物件を検討します。
1店出店するために5~10件程度の候補物件を調査することも珍しくありません。
ㅤ
つまり、仮に年間10店舗を出店している会社なら、その裏側では何十件もの物件について、「ここに出店するべきか?」を考えていることになります。
ㅤ
その中から実際に出店するのはごく一部ですが、では、出店しなかった残りの物件はどうなるでしょうか。
ㅤ
もちろん資料として残っている会社もあるでしょう。
ㅤ
しかし、「あの物件は見送った」で、その後ほとんど振り返られることがないケースも多いのではないでしょうか。
ㅤ
私は最近、これは非常にもったいないことなのではないかと考えています。
ㅤ
なぜなら、出店した店舗だけでなく、「出店しなかった物件」にも、その会社の立地判断の記録が残っているからです。
ㅤ
ㅤ
ㅤ
ㅤ
<出店した店舗なら「答え合わせ」はできるが・・・>
ㅤ
当然と言えば当然ですが、出店した店舗については、その後「実績」が生まれます。
ㅤ
たとえば出店前に、「この物件なら月商1,000万円くらいだろう」と予測したとします。
そして実際に出店してみたら、月商980万円だった、あるいは600万円しか売れなかった、反対に1,300万円売れた、という実績が判明するわけです。
ㅤ
こうなれば、予測と実績を比較できます。
ㅤ
大きく外れたのであれば、「なぜ外れたのだろう?」と考えることもできます。
ㅤ
先日の別記事でも書きましたが、こうした予測と実績のズレは、自社がまだ把握していない立地要因を発見するきっかけになることがあります。
「売上予測が大きく外れた店」は実は宝の山かもしれない
https://sorb.co.jp/blog/learn-location-factors-from-sales-forecast-errors/
ㅤ
だからこそ、出店後の検証は重要です。
ㅤ
ㅤ
しかし、ここで考えてみていただきたいのです。
ㅤ
10件の候補物件を調査して、その中から1件に出店したとすると、会社には、その1件については「答え」が残ります。
ㅤ
では、出店しなかった残りの9件について、自社の判断が正しかったかどうかを検証したことはあるでしょうか。
ㅤ
ㅤ
これは意外と難しい問題です。
ㅤ
出店していないのですから、当然、自社店舗の売上実績は存在しません。
つまり、出店した物件と同じ意味での答え合わせはできないのです。
ㅤ
だからこそ、その9件はいつの間にか会社の記憶から消えていきます。
ㅤ
ㅤ
ㅤ
ㅤ
<「なぜ見送ったのか」を残しておく>
ㅤ
そこで、ひとつ提案したいことがあります。
ㅤ
出店しなかった物件についても、「なぜこの物件には出店しなかったのか」を記録として残しておくのです。
ㅤ
たとえば、
「マーケットサイズが自社業態には小さいと判断した」
「主要なTGから発生した人々の動線に乗っていない」
「店舗の視界性が弱い」
「競合制約が大きい」
「物件自体の構造に問題がある」
といった立地上の理由です。
ㅤ
なお、もちろん、
「立地は良かったが賃料が合わなかった」
「契約条件で折り合わなかった」
「他社に先に取られた」
ということもあるでしょう。
ㅤ
いずれにしても、これらは分けて記録しておいた方がいいと思います。
ㅤ
なぜなら、「出店しなかった物件」と「立地が悪いと判断した物件」は、まったく同じではないからです。
ㅤ
立地評価は高かったのに、経済条件によって出店できなかった物件もあります。
反対に、条件面では魅力的でも、立地上のリスクが大きいため見送った物件もあります。
ㅤ
ここを一緒にしてしまうと、後から振り返ったときに、自社がその物件をどう評価していたのか分からなくなってしまいます。
ㅤ
ㅤ
立地分析では、実査の前に地図などから仮説を立て、現地で確認し、想像と現実の違いがあればその理由を探していくことを重視します。
ㅤ
その流れで、候補物件のすべてについて、「その時点で私たちはその立地をどう見ていたのか」を残しておけば、それ自体が後から検証できる仮説になります。
ㅤ
ㅤ
ㅤ
ㅤ
<数年後にその物件をもう一度見てみる>
ㅤ
では、出店しなかった物件をどう検証するのでしょうか。
ㅤ
ここは、出店した店舗のような厳密な答え合わせはできません。
その点は区別して考える必要があります。
ㅤ
しかし、後からその場所を見ることで分かることはあります。
ㅤ
ㅤ
たとえば、「店舗へのアクセスが悪い」と判断して見送った物件があったとします。
ㅤ
その後、別のチェーンがそこへ出店して、数年経っても営業していて、どうやら繁盛しているように見えたとすればどうでしょうか。
ㅤ
もちろん、「他社が繁盛している=自社も出店すべきだった」とは言えません。
ㅤ
ブランドが違えば、商品も価格も店舗吸引力も違います。
そうなると、同じ立地でも必要とされる条件は変わりますから。
あるチェーンでは難しい立地が他のチェーンでは繁盛するパターンはあります。
ㅤ
ただ、そういった見方をするだけでなく、「私たちはなぜこの物件をアクセスが悪いと評価したのだろう?」と考え直す材料にすることが重要なのです。
ㅤ
ㅤ
逆もあります。
ㅤ
当時、「かなり良い物件だ」と評価していたものの、賃料などの条件が合わず出店できなかったケースがあったとします。
そして、その後そこに入った店舗が何度も入れ替わっているとしたら、どうでしょうか。
ㅤ
そうであれば、これもまた「本当にあのときの立地評価は正しかったのだろうか?」と考えてみる価値があります。
ㅤ
もしかすると、当時は気づいていなかった立地上の問題があるかもしれません。
ㅤ
もちろん、他社の閉店理由は外部から正確には分かりません。
経営上の問題かもしれませんし、商品やオペレーションの問題かもしれません。
ㅤ
ですから、他社店舗の成否だけで立地判断の正誤を決めるべきではありません。
ㅤ
ただそれでも重要なのは、昔の判断をもう一度疑ってみるきっかけにすることです。
ㅤ
ㅤ
私たちの立地理論そのものも、さまざまな店舗を観察し、売上げとの関係を分析し、モデル化し、実際に適用して検証し、その結果から概念をさらに精緻化する、という反復によって作られてきました。
ㅤ
その過程で、こうした検証を幾度も実施してきたのです。
ㅤ
ㅤ
ㅤ
ㅤ
<まとめ――「出さなかった判断」も会社の立地資産になる>
ㅤ
店舗開発という仕事では、どうしても「出店した店舗」に目が向きます。
ㅤ
それ自体は当然のことです。
そこには売上げが発生し、投資があり、その後の経営があるわけですから。
ㅤ
だからこそ、成功・失敗に限らず実際に出店した店舗を分析し、売上予測と実績を比較することは非常に重要なわけです。
ㅤ
ㅤ
しかし、店舗開発という仕事をもう少し広く考えると、会社が行っている重要な意思決定は、「どこに出すか」だけではありません。
同じくらい、「どこには出さないか」も判断しています。
ㅤ
1店を出すために5~10件の物件を検討しているのであれば、会社が下している「出さない」という判断は、「出す」という判断よりはるかに多いことになります。
ㅤ
それなのに、「出す」と決めた物件だけを記録し、「出さない」と決めた判断を忘れてしまうのであれば、会社が行った意思決定の大部分を検証せずに捨てていることになります。
ㅤ
私は、これは少しもったいないと思うのです。
ㅤ
ㅤ
すべての見送り物件を何年も追跡する必要まではないでしょう。
ㅤ
しかし少なくとも、「どの物件を検討したのか」「その時に立地をどう評価したのか」「なぜ出店しなかったのか」くらいは、後から振り返れる形で残しておいてもいいのではないでしょうか。
ㅤ
そして、ときどきその物件の「その後」を見てみるのです。
ㅤ
すると、「やはりあの判断は正しかった」ということもあれば、「もしかすると、私たちはこの立地要因を過小評価しているのではないか」と気づくこともあるかもしれません。
ㅤ
ㅤ
ㅤ
調査部門を持つ大きな意味のひとつは、こうした経験を個人の記憶だけにせず、会社の立地ノウハウとして蓄積していくことにあります。
ㅤ
出店した店舗だけが、会社の立地資産なのではありません。
ㅤ
検討し、考え、そして「出さない」と判断した物件も、その判断理由まで残しておけば、会社の立地ノウハウを育てる貴重な材料になるのです。
ㅤ
ㅤ

