店舗ビジネスをやっている会社には、時々驚くほど「物件を見る目」のある社長がいます。
ㅤ
物件資料を見て、現地へ行く。
周辺を少し歩く。
店前に立って街を見る。
そして、「ここはいける」と判断する。
ㅤ
一見して細かな分析をしているようには見えないのに、そういった社長が選んだ物件は、実際に出店すると売れるのです。
ㅤ
こうした経営者は、本当にいます。
ㅤ
特に創業社長の場合、自分自身で何店舗、何十店舗と出店してきた経験があります。
ㅤ
どんな街なら売れるのか。
どんな物件が危ないのか。
どんな場所なら自社のお客さんが来るのか。
長年の経験によって、そうしたことを感覚的に見抜けるようになっているのです。
ㅤ
ㅤ
私は、こうした「社長の勘」を否定するつもりはありません。
ㅤ
むしろ、その勘が非常に優秀だからこそ会社が成長してきた、というケースもたくさんあります。
ㅤ
しかし、ここには大きな問題があります。
ㅤ
社長の勘で出店に成功してきた会社ほど、ある規模になったところで成長が止まってしまうことがあるのです。
ㅤ
ㅤ
ㅤ
ㅤ
<「社長の勘」は実は膨大な経験の蓄積である>
ㅤ
そもそも、優秀な経営者の「勘」とは何なのでしょうか。
ㅤ
本当に何も考えず、「なんとなくここが良さそう」と言っているわけではありません。
ㅤ
ㅤ
例えば、その社長は無意識のうちに、
ㅤ
このくらいのマーケットなら自社の業態が成立する。
このTGから発生した人たちは、この動線を通る。
ここなら店が自然に視界に入る。
この競合との位置関係なら戦える。
この物件は間口が狭すぎる。
ㅤ
など、様々な情報を見ている可能性があります。
ㅤ
ただし、問題を挙げるとするなら、それらが明確に言語化されていないのです。
ㅤ
本人の中でのみ、「この感じなら売れる」というひとつの感覚として処理されているわけです。
言ってみれば、社長の頭の中に非常に高度な「売上予測モデル」ができているようなものです。
ㅤ
長年の成功と失敗によって、そこらのデータサイエンティストが統計解析をする以上に判断基準が磨かれていて、だから当たるわけですね。
ㅤ
ㅤ
会社が10店舗、20店舗と成長していく段階では、こうした方法が非常に強いことがあります。
ㅤ
社長自身が物件を見て、その場で判断する。
すると、決断も速い。
そして、責任も自分で取れる。
ㅤ
何より、自分が作った会社ですから、誰よりも「この店を成功させたい」という情熱があります。
こうして、優秀な創業社長が自ら出店判断をすることで、一気に店舗数を増やしていくことがあります。
ㅤ
ところが、この成功そのものが、次の問題を生みます。
ㅤ
ㅤ
ㅤ
ㅤ
<社長が100店舗すべての物件を見ることはできない>
ㅤ
会社がさらに成長していくと、当然ながら出店数も増えていきます。
ㅤ
年間2店舗、3店舗だった頃なら、社長がすべての候補物件を見に行くこともできたでしょう。
しかし年間10店舗、20店舗と出店するようになったらどうでしょうか。
ㅤ
実際に10店舗出店するためには、候補物件はその何倍も見なければなりません。
しかし社長には、出店以外の仕事もあります。
ㅤ
経営戦略を考える。
人を採用する。
資金を調達する。
商品を考える。
組織を見る。
取引先と会う。
ㅤ
会社が大きくなるほど、社長がやるべき仕事は増えていきます。
ㅤ
そうなると、「すべての物件を社長が見て判断する」という仕組みそのものが、物理的に成立しなくなってきます。
ㅤ
そこで店舗開発担当者に判断を任せるようになるわけですが・・・・
ㅤ
ㅤ
すると、今まで社長なら見抜けていた物件の違いを、担当者は見抜けないことがあります。
ㅤ
店舗開発の経験が浅い社員が代わりに調査したところで、
「駅から近い」
「人通りが多い」
「競合が少ない」
「家賃も予算内」
といった分かりやすい条件だけで判断するようになってしまいます。
ㅤ
仮に、熟練の店舗開発経験者を外部から連れてきて任せたとしても、その人は「自社の業態に特化した立地要因」を把握しているわけではありません。
ㅤ
ㅤ
その結果、以前より出店の成功率が落ちてしまうことになります。
ㅤ
これは、社長という個人がワンマンで物件を開発してきてしまったために、会社としての出店判断能力が、会社自体の成長(店舗数の増加)についていけていないということです。
ㅤ
ㅤ
ㅤ
ㅤ
<優秀な社長ほど「属人化」に気づきにくい>
ㅤ
ここが、この問題の少し厄介なところです。
ㅤ
もし社長の出店判断が最初からあまり当たっていなければ、会社は早い段階で、「きちんと立地分析をしよう」「判断基準を作ろう」と考えていたかもしれません。
ㅤ
しかし、社長の判断がズバズバ当たってしまい、画期的な店舗開発をしてきてしまっていたら、仕組みを作らなくても会社が成長できてしまうわけです。
ㅤ
これが、むしろ問題なのです。
ㅤ
ㅤ
社長自身は、「私は見れば分かる」と思っています。
周囲の社員も、「最後は社長に見てもらえば大丈夫」と思っています。
ㅤ
すると、会社として、「なぜこの物件なら売れるのか」「なぜこの物件は出店してはいけないのか」という判断基準を整理する必要がありません。
ㅤ
成功店ができても、「社長が選んだ場所だから」で終わってしまいます。
失敗店ができても、「今回は(社長が)読み違えた」で終わってしまう。
ㅤ
これでは、せっかく何十店舗も出店しているのに、会社の中にノウハウが蓄積されません。
ㅤ
つまり、社長には経験が蓄積されているのに、会社には経験が蓄積されていないというわけです。
ㅤ
ここに大きな問題があります。
ㅤ
ㅤ
そして会社が大きくなり、社長ひとりではすべての物件を判断できなくなった瞬間、それまで隠れていた問題が一気に表面化するのです。
ㅤ
つまり、会社を成長させてきた「社長の強み」が、そのまま会社の成長を止めるボトルネックになってしまうということですね。
ㅤ
ㅤ
ㅤ
ㅤ
<まとめ――「社長の目」を会社の能力に変える>
ㅤ
私は、こうして懸念点を書いてはいますが、決して「社長の勘を捨てる」という必要はないと思っています。
ㅤ
むしろ、優秀な社長が長年培ってきた判断には、会社にとって非常に価値のある情報が詰まっています。
ㅤ
問題なのは何かというと、そのノウハウが社長の頭の中にしか存在しないことの方なのです。
ㅤ
ㅤ
ですから本当に必要なのは、「勘をやめて全部データで決めましょう」ということではありません。
ㅤ
社長が何を見ているのか。
成功した店舗には、どんな立地上の共通点があるのか。
失敗した店舗では、何を見落としていたのか。
ㅤ
既存店の売上げと立地条件を分析しながら、それまで感覚的に行われてきた判断を、少しずつ会社のノウハウに変えていくことが重要です。
ㅤ
売上げに関わる立地の要因をつぶさに整理し、「自社の業態はどんな場所で売上げを高めることができるのか(どんな場所だと不振店になりやすいのか)」を明らかにしていくのです。
ㅤ
そして、その判断基準を店舗開発担当者や調査担当者が共有できるようにすれば、社長自身がすべての候補物件を見なくても、会社として一定の精度で出店判断ができるようになります。
ㅤ
ㅤ
ㅤ
これは単なる「立地分析の導入」ではありません。
ㅤ
個人の能力を、組織の能力へ変えることを意味しています。
ㅤ
10店舗、20店舗まで会社を成長させる力と、100店舗、200店舗へ成長させる力は、必ずしも同じではありません。
ㅤ
創業期には、社長自身の圧倒的な経験、情熱、決断力が会社を前へ進めますが、その先へ行くためには、「社長が分かる会社」から、「会社として分かる会社」へ変わらなければならないと私は考えます。
ㅤ
ㅤ
店舗立地においても、それは同じです。
ㅤ
「社長が見れば分かる」というのは確かに、その会社の強みです。
でも、本当に会社を大きくしていきたいのであれば、その次に考えるべきことがあります。
ㅤ
「なぜ社長には分かるのか?」を解明し、会社の中に残していくこと。
ㅤ
そこから初めて、「社長の勘」は、その人一代の能力ではなく、会社の成長を支えるノウハウになっていくのです。
ㅤ
ㅤ

