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もっと確かな売上予測の方法(その3)市場シェア率法 連載29
前々回は、回転率法、前回はキャッチ率法を紹介しました。そして、これらは、簡単に計算できて、説得力もありますが、実際は出店に際した「甘い思い込み」を作ってしまう側面を持っていると話しました。
今回は、そうした「甘い思い込み」が作られにくい売上予測の方法についてお話しします。
市場シェア率法と一般に呼ばれている売上予測の方法です。
この仕組みも至って簡単で、要するに、①どれだけの市場(マーケット)規模があるか、と②その市場からどれだけシェアがとれるかを別々に計算して、最後にその二つを掛け合わせるというものです。
①どれだけ市場(マーケット)規模があるか
財団法人食の安全・安心財団 附属外食産業総合調査研究センター(以下、センター)によれば、平成23年の外食産業の市場規模は23兆475億円とのことです(図1)。
その内ファストフードやファミリーレストランなどを含む「飲食店」だけでは12兆6526億円だということです。これが日本全体の事実上の外食市場です。
これを、日本の総人口1億2776万人(*)で割ると、「人口1人当たりの飲食店利用金額」がわかります。計算すると9万5700円です。この値は、架空の数字でもなければ作った数字でもありません。ここが大事なところです。今までの方法での回転率やキャッチ率はいずれも、統計的な確たる理由があったわけではありませんでした。でも、この第三の方法では、こうした確かな数字を使うことができます。
ということは、例えば、人口3万人の町があれば、この町は、9.57万×3万で、=28.7億円の市場規模が存在していると合理的に説明することができるわけです(もちろん、この場合、町からの流出と町への流入の人口がそれぞれゼロであるか、あるいは等しいことが前提です)。
ところで、センターは図1のようにさらに詳しく統計をとっています。日本全体で、すし店は1兆2857億円、そば・うどん店は1兆640億円。居酒屋等で9936億円です。
先ほどと同様に1人当たりに換算すると、すし店は1万100円、そば・うどん店は8300円、居酒屋等は7800円です。
そして、さらに計算すると人口3万人の町なら、すし店の市場(マーケット)規模は3億300万円、そば・うどん店で同2億4900万円、居酒屋等の店で同2億3400万円ということになります。
どうです。わかりやすいでしょう。
問題はこれからです。
地理的に、どこまでの範囲を選択するかです。
仮に、その町の周囲が山や海で囲まれていて、流入と流出が同じなら難なく、その町だけを選択すれば良いのですが、実際はそんな簡単ではありません。
とりわけ都市部に近づくほど、町と町の境界はあいまいになってきますし、流出超過または流入超過の町が多くなってきます。
この解決法は限られています。まず、第一は、なるべく広い範囲を選択することです。
そうして、明らかに分断している山や川、海、広い空間があるところで境を設定することです。そうすると、市全体になってしまったり、時には、県全体になってしまったりもします。
第二の方法は、そうした物理的な分断や空間を無視して、単純に半径○○kmと円を描いたり、時速40kmで15分走行できる範囲というようにしてしまうことです。
そして、その範囲内の人口を算出します。これに、カテゴリー別の「1人当たりの飲食店利用金額」を掛ければ、一応、市場規模を計算できます。ちょっと乱暴のような気がしますが、実務的にはこうするしかありません。
②どれだけシェアがとれるか
実は、これが一番の難題です。
ある米国の経済学者は、大型小売店の客の取り合いは、店の売り場面積に比例することを提唱しました。また、別の学者は、店までの距離の二乗に反比例することを加えるべきだと主張しました。20世紀初頭の頃です。
要するに、「お客は売り場面積が大きくて品揃えの良い店に行きたがり、店までの距離が遠くなればなるほど行きたがらなくなる」というものです。これって、とても説得力があるような気がしませんか?
この考え方は多くの経済学者に受け入れられ、今でも「重力モデル」とか「ハフモデル」とか呼ばれて日本でもよく使われている有名な売上予測方法の一つです。
この考え方は、要するに、大型店同士が市場の中でどれほどのシェアを確保できるか、その計算を行うことにつながっていきます。
しかし、このシェアの出し方は、「大型店」にのみ有効でして、飲食店のような小型店にはほとんど通用しません。
ですから、飲食店用のシェアの出し方を考えなければなりません。
一番簡単な方法は、店数の逆数をとることです。つまり、5店舗あれば5の逆数、1÷5で0.2がシェア率ということになります。2店舗なら0.5ですね。
このやり方は、どんな店も同じ魅力度があるという前提に立っています。でも、実際はそういうことはありませんね。魅力度の高い店もあればそうでない店もあります。
ということになると、魅力度を数字にしなければなりません。
その一例を示します(図3)。
まず、比較する店舗を決めます。もちろん、①で選択した範囲内で自分と同じ業種業態の店をすべて挙げることです。ここでは5店舗+「私の店」ということにしましょう。
そして、お客が店を選ぶ基準となりそうな項目を列挙します。少なすぎても多すぎてもいけません。この事例では、「A客席数得点」、「B味・品質」、「Cサービス」、「D清潔さ」、「Eその他のバリュー」の5つにしました。客席数は多いほどお客が入れるので、最も客席数の多い店の得点を10にして、それぞれの店のA客席数得点を求めます。B~Dは、いわゆるQSCですのでおわかりですね。評価表を使って10点満点で記入します。「Eその他のバリュー」は、QSC以外の長所があったら加算する項目です。例えば、「そば打ちの実演をしている」とか、「昼時間帯に安価なセットメニューがある」とか、「よくテレビや雑誌で紹介される」、「専用のホームページがある」というような客観的なプラス面を得点化します。
こうしてまずA~Eの合計点を出します。
さて、これに少し立地上の要因も加味しましょう。分かりやすい例として、ここでは最寄駅からの距離を使いました。駅に近い方がお客には便利ですから、距離が長い方が不便。つまり、合計点をこの距離で割ると、総合的な「魅力度」が出ますね(ここでは、全部に100を掛けて値が小さくなり過ぎないようにしています)。
こうして算出された魅力度の合計を出しましょう。ここでは、181.7 と出ました。これを魅力度合計と言います。各店の魅力度をこの魅力度合計で割って出た比率値、そうです、これが「シェア率」になります。
「私の店」のシェア率は、21% ですね。
最後に掛け合わせる
さて、こうして①市場規模と②シェア率が出ましたから、売上予測ができます。
仮に、30000人の町で、居酒屋を出そうとしていたとします。すると、(市場規模2億3400万円)×(21%)=4900(万円/年)です。
すでに、お分かりだと思いますが、市場規模が正確に求められたとしても、シェアを求める際に用いる算出表に絶対的なものがありません。また、一般に出回っているものでもありません。ですから、この表は、自分で考えて作らなければなりません。評価表も同じです。これらの表の作り方一つで、シェア率はいかような値にもなります。自店に都合の良い項目ばかり選べば、シェア率は大きくなり、反対ならば小さくなります。このあたりが、この売上予測法の弱点でもあります。
でも、不確かな数字ばかりよりは救いがあるかもしれませんね。しかも、同業店をそれぞれしっかり調査してこない限り、答えは出ないのですから、ある意味、とても客観的で、ち密な売上予測の方法には違いありません。
注記
*国勢調査2005年(日本人と3か月以上在住の一般外国人)
(プロフィール)
林原安徳はやしはら やすのり 売上予測のプロ。経営コンサルタント。1956年さいたま市生55才。 東大(農)卒後、日本マクドナルド(株)出店調査部にて、「立地と売上予測」を基礎研究。退社独立後、理論を独自に深耕させSORBICS(ソルビクス)と命名。これに基づき、チェーン展開する多くの企業や個人を指導。主な著作「実践・売上予測と立地判定」(商業界)「最新版 これが繁盛立地だ!」(同文舘出版)。無料メルマガを配信中。http://www.sorb.co.jp
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前々回は、回転率法、前回はキャッチ率法を紹介しました。そして、これらは、簡単に計算できて、説得力もありますが、実際は出店に際した「甘い思い込み」を作ってしまう側面を持っていると話しました。
今回は、そうした「甘い思い込み」が作られにくい売上予測の方法についてお話しします。
市場シェア率法と一般に呼ばれている売上予測の方法です。
この仕組みも至って簡単で、要するに、①どれだけの市場(マーケット)規模があるか、と②その市場からどれだけシェアがとれるかを別々に計算して、最後にその二つを掛け合わせるというものです。
①どれだけ市場(マーケット)規模があるか
財団法人食の安全・安心財団 附属外食産業総合調査研究センター(以下、センター)によれば、平成23年の外食産業の市場規模は23兆475億円とのことです(図1)。
その内ファストフードやファミリーレストランなどを含む「飲食店」だけでは12兆6526億円だということです。これが日本全体の事実上の外食市場です。
これを、日本の総人口1億2776万人(*)で割ると、「人口1人当たりの飲食店利用金額」がわかります。計算すると9万5700円です。この値は、架空の数字でもなければ作った数字でもありません。ここが大事なところです。今までの方法での回転率やキャッチ率はいずれも、統計的な確たる理由があったわけではありませんでした。でも、この第三の方法では、こうした確かな数字を使うことができます。
ということは、例えば、人口3万人の町があれば、この町は、9.57万×3万で、=28.7億円の市場規模が存在していると合理的に説明することができるわけです(もちろん、この場合、町からの流出と町への流入の人口がそれぞれゼロであるか、あるいは等しいことが前提です)。
ところで、センターは図1のようにさらに詳しく統計をとっています。日本全体で、すし店は1兆2857億円、そば・うどん店は1兆640億円。居酒屋等で9936億円です。
先ほどと同様に1人当たりに換算すると、すし店は1万100円、そば・うどん店は8300円、居酒屋等は7800円です。
そして、さらに計算すると人口3万人の町なら、すし店の市場(マーケット)規模は3億300万円、そば・うどん店で同2億4900万円、居酒屋等の店で同2億3400万円ということになります。
どうです。わかりやすいでしょう。
問題はこれからです。
地理的に、どこまでの範囲を選択するかです。
仮に、その町の周囲が山や海で囲まれていて、流入と流出が同じなら難なく、その町だけを選択すれば良いのですが、実際はそんな簡単ではありません。
とりわけ都市部に近づくほど、町と町の境界はあいまいになってきますし、流出超過または流入超過の町が多くなってきます。
この解決法は限られています。まず、第一は、なるべく広い範囲を選択することです。
そうして、明らかに分断している山や川、海、広い空間があるところで境を設定することです。そうすると、市全体になってしまったり、時には、県全体になってしまったりもします。
第二の方法は、そうした物理的な分断や空間を無視して、単純に半径○○kmと円を描いたり、時速40kmで15分走行できる範囲というようにしてしまうことです。
そして、その範囲内の人口を算出します。これに、カテゴリー別の「1人当たりの飲食店利用金額」を掛ければ、一応、市場規模を計算できます。ちょっと乱暴のような気がしますが、実務的にはこうするしかありません。
②どれだけシェアがとれるか
実は、これが一番の難題です。
ある米国の経済学者は、大型小売店の客の取り合いは、店の売り場面積に比例することを提唱しました。また、別の学者は、店までの距離の二乗に反比例することを加えるべきだと主張しました。20世紀初頭の頃です。
要するに、「お客は売り場面積が大きくて品揃えの良い店に行きたがり、店までの距離が遠くなればなるほど行きたがらなくなる」というものです。これって、とても説得力があるような気がしませんか?
この考え方は多くの経済学者に受け入れられ、今でも「重力モデル」とか「ハフモデル」とか呼ばれて日本でもよく使われている有名な売上予測方法の一つです。
この考え方は、要するに、大型店同士が市場の中でどれほどのシェアを確保できるか、その計算を行うことにつながっていきます。
しかし、このシェアの出し方は、「大型店」にのみ有効でして、飲食店のような小型店にはほとんど通用しません。
ですから、飲食店用のシェアの出し方を考えなければなりません。
一番簡単な方法は、店数の逆数をとることです。つまり、5店舗あれば5の逆数、1÷5で0.2がシェア率ということになります。2店舗なら0.5ですね。
このやり方は、どんな店も同じ魅力度があるという前提に立っています。でも、実際はそういうことはありませんね。魅力度の高い店もあればそうでない店もあります。
ということになると、魅力度を数字にしなければなりません。
その一例を示します(図3)。
まず、比較する店舗を決めます。もちろん、①で選択した範囲内で自分と同じ業種業態の店をすべて挙げることです。ここでは5店舗+「私の店」ということにしましょう。
そして、お客が店を選ぶ基準となりそうな項目を列挙します。少なすぎても多すぎてもいけません。この事例では、「A客席数得点」、「B味・品質」、「Cサービス」、「D清潔さ」、「Eその他のバリュー」の5つにしました。客席数は多いほどお客が入れるので、最も客席数の多い店の得点を10にして、それぞれの店のA客席数得点を求めます。B~Dは、いわゆるQSCですのでおわかりですね。評価表を使って10点満点で記入します。「Eその他のバリュー」は、QSC以外の長所があったら加算する項目です。例えば、「そば打ちの実演をしている」とか、「昼時間帯に安価なセットメニューがある」とか、「よくテレビや雑誌で紹介される」、「専用のホームページがある」というような客観的なプラス面を得点化します。
こうしてまずA~Eの合計点を出します。
さて、これに少し立地上の要因も加味しましょう。分かりやすい例として、ここでは最寄駅からの距離を使いました。駅に近い方がお客には便利ですから、距離が長い方が不便。つまり、合計点をこの距離で割ると、総合的な「魅力度」が出ますね(ここでは、全部に100を掛けて値が小さくなり過ぎないようにしています)。
こうして算出された魅力度の合計を出しましょう。ここでは、181.7 と出ました。これを魅力度合計と言います。各店の魅力度をこの魅力度合計で割って出た比率値、そうです、これが「シェア率」になります。
「私の店」のシェア率は、21% ですね。
最後に掛け合わせる
さて、こうして①市場規模と②シェア率が出ましたから、売上予測ができます。
仮に、30000人の町で、居酒屋を出そうとしていたとします。すると、(市場規模2億3400万円)×(21%)=4900(万円/年)です。
すでに、お分かりだと思いますが、市場規模が正確に求められたとしても、シェアを求める際に用いる算出表に絶対的なものがありません。また、一般に出回っているものでもありません。ですから、この表は、自分で考えて作らなければなりません。評価表も同じです。これらの表の作り方一つで、シェア率はいかような値にもなります。自店に都合の良い項目ばかり選べば、シェア率は大きくなり、反対ならば小さくなります。このあたりが、この売上予測法の弱点でもあります。
でも、不確かな数字ばかりよりは救いがあるかもしれませんね。しかも、同業店をそれぞれしっかり調査してこない限り、答えは出ないのですから、ある意味、とても客観的で、ち密な売上予測の方法には違いありません。
注記
*国勢調査2005年(日本人と3か月以上在住の一般外国人)
(プロフィール)
林原安徳はやしはら やすのり
売上予測のプロ。経営コンサルタント。1956年さいたま市生55才。 東大(農)卒後、日本マクドナルド(株)出店調査部にて、「立地と売上予測」を基礎研究。退社独立後、理論を独自に深耕させSORBICS(ソルビクス)と命名。これに基づき、チェーン展開する多くの企業や個人を指導。主な著作「実践・売上予測と立地判定」(商業界)「最新版 これが繁盛立地だ!」(同文舘出版)。無料メルマガを配信中。http://www.sorb.co.jp
今回不要 ▼
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