東京都港区南青山2-2-15
ららぽーと湘南平塚(食品館イトーヨーカ堂)
商圏分析の方法14 ~ららぽーと湘南平塚(食品館イトーヨーカ堂)
商圏分析の方法-A
[既存施設との比較]
ららぽーと湘南平塚(以下、本物件と呼ぶ)は、三井ショッピングパークとして神奈川県では’06年開業のラゾーナ川崎プラザ(同、「B川崎」)、’07年開業のららぽーと横浜(同、「B横浜」)、昨年10月に開業したららぽーと海老名(「C海老名」)に続き4番目の開業となる(図1)。
その規模を比較すると(図2)、
本物件は、A川崎の172,303㎡に匹敵する延床面積166,000㎡あり2番目、テナント店こそ他より246店とやや少なめだが、駐車台数約3,500台は、最も少ないC海老名1800台の2倍近い。つまり、施設規模から見る限り、最大級のショッピングセンターである。
商圏分析の方法-B
では、物件の商圏はどうか。ここでは事前発表されている「10km圏」ではなく、もっと施設売上への影響度が高くなる「5km圏」で比較する(図3)。
すると人口(※1)は、353(千人)とA川崎のほぼ3分の1と最も少ない。人口増加率(※2)においても同様であり、既存施設が2~6%と比較的高い中、本物件は1%を切る。
地域住民の”購買力”を小売業年間販売額(小売額:※3)を使って比較しても、3839億円は、既存施設の4279~9912億円と比べて見劣りする。
A川崎とC海老名はいずれも駅隣接である。一日平均乗降数が536千人の川崎駅、248千人の海老名駅に隣接して開発できたことは極めて異例とも言える。その分、駐車台数は2000台程度に抑えられる。反対に、駅まで500mしか距離がないものの鶴見川などで事実上鉄道での来店が難しいB横浜は、その2.5倍、4824台の駐車場を確保している。
では、本物件ではどうか。駅まで直線距離で1km弱あるため、鉄道での来店を多く期待するわけには行かない。いきおい自動車での来店を期待することになり、駐車数3500台は最低限不可欠な数と言えよう。
とまれ、既存施設と比較してくると、他より小さなマーケット、ハンディを負う立地でで、最大級のショッピングセンターを開業させたことになる。この勝算はどこにあるのか、
商圏分析の方法-C
人口(5km圏)は353千人であるが、年齢別にはどうか、将来はどうか?
年齢別で見ると(図5)、団塊の世代(60~69歳)と団塊の世代ジュニア(35~44歳)にピークを持つ典型的な人口ピラミッドである。
ただし、詳細に見るならば、団塊の世代以上の高齢者が神奈川県平均よりも男女ともに微妙に多い。また、20~44歳代がやや少ないものの、0~19歳代は同平均とほぼ同じである。
商圏分析の方法-D
一方、将来人口を予測すると(※4)、早くも2015年には人口減少が始まり、2035年には、2010年比7.6%減少することが分かった(図6)。
商圏分析の方法-E
事実、平塚市の住民基本台帳人口よれば、2010年を境に毎月人口が減り続けている(図7)。
(生産年齢人口[15~64歳]はさらに激しく18.9%減少する)。
とは言え、この人口減少・生産年齢人口の減少は全国的な傾向であり、とりわけ驚くには値しない。
商圏分析の方法-F
[商圏の拡大要因と分断要因]
本物件の最大の強みは、人口が集中する平塚駅周辺の人々を確実に顧客化できることにある。人々が行動する方向をシミュレーションした”行動ベクトル”を視覚化した図8を見れば物件の南側(平塚駅周辺)における行動ベクトルはすべて物件に向かっている。
日常的に向かう行動方向が物件前ないし近くを通るのであるから、物件についての認知度も利用度も高くなるのは言うまでもない。これで商圏の南および西地域は確実な商圏になりうる。また、西側には遠く小田原方面まで10km以上拡大する可能性がある。
これに対して、物件のすぐ東側1kmには南北に相模川(川幅500m)が流れており、これが自然の分断要因となることは明らかである。また、隣りの茅ケ崎市からの行動ベクトルは物件方向とは反対になっている。この2つの要因から茅ケ崎市からの顧客誘導は難しいことが伺える。
以上を考慮にいれた1次商圏は図9のようになると推測できる。
商圏分析の方法-G
[1次商圏内の特徴]
人口や年齢別人口、人口予測はこれまでとほぼ同じであるから省く。
300万円未満の世帯比率が県平均より顕著に高い(図10)。
これに対して、900万円以上は低い。ということは、高付加価値、高単価の商品・サービスに偏る商品政策は好ましくないことを示している。
商圏分析の方法-H
自家用車の利用率がきわめて大きい。これは、前述の既存施設と比べると一層際立つ。
A川崎とB横浜の主たる交通手段は鉄道であり、C海老名では鉄道と自家用車がほぼ同じ比率である。これらに対して、物件では自家用車の利用が最も高い(図11)。
これは、昔から工場が多く、産業上の必要性から鉄道と道路の立体交差化が進んでいたこと、東西にも南北にも道路が発達したこと、結果的にどこに向かうにもアクセスが良いとと無関係でない。すると、本物件では、B横浜より駐車場が多くても良いくらいである。
[食品館イトーヨーカドーの競合店]
5km圏内に確認できる食品スーパーは62店。単純計算すると1店当たりの支持人口は5690人ときわめて少ない。コンビニエンスストアの全国平均が2000人前後であるが、この3倍にも満たず、食品スーパーとして明らかに出店過剰である。いかに競合他社から顧客を奪って来れる圧倒的な業態力をつけているかが試される。
ちなみに、A川崎では食品スーパーの数は136店(支持人口7590人)、B横浜で64店(同8984人)、C海老名で51店(7550人)である。既存施設と比べても厳しい。
商圏分析の方法-I
この商圏では、「高齢単身世帯」が急速に増えている(10年で約2倍、図13)ことから、
こうした高齢単身者向けの商品ラインナップを無視することはできない。ただし、物件のような大型ショッピングセンターともなると、自動車での来店がメインとなり、反面、徒歩来店・自転車来店が難しくなる。積極的な高齢単身者の取り込み・顧客化が待たれる。
[総じて]
物件は、平塚駅から1kmも離れておらず、かつ、駅周辺住民が自動車などで容易に行ける場所にある。そのため、平塚駅周辺(南地域)や西地域から多くの顧客来店を期待できると言える。しかしながら、商圏の拡がりという観点からは、東の茅ケ崎周辺とは相模川によって完全に分断されているばかりか、人口そのものが減少に転じており、将来的な発展性は難しい。加えて、食品スーパーにおいては競合状況がきわめて深刻な状況にあり他店を差別化できる強い業態力が望まれる。
物件での最大の強みは、駐車場の広さであり、自家用車利用で商圏が西へ大きく伸びる可能性が高いことである。また、物件周辺には徒歩、自転車を含め既存の交通手段では来店困難な高齢単身者が急速に増えている点にもマーケティングとして着目する必要がある。
※1 国勢調査2010年
※2 人口増加率=(人口2010年 ÷ 人口2005年‐1)×100
※3 商業統計調査2007年
※4 1995~2010年の国勢調査をもとにコーホート変化率法を用いて予測した。
24/09/08
23/06/12
22/05/20
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商圏分析の方法14 ~ららぽーと湘南平塚(食品館イトーヨーカ堂)
商圏分析の方法-A
[既存施設との比較]
ららぽーと湘南平塚(以下、本物件と呼ぶ)は、三井ショッピングパークとして神奈川県では’06年開業のラゾーナ川崎プラザ(同、「B川崎」)、’07年開業のららぽーと横浜(同、「B横浜」)、昨年10月に開業したららぽーと海老名(「C海老名」)に続き4番目の開業となる(図1)。
その規模を比較すると(図2)、
本物件は、A川崎の172,303㎡に匹敵する延床面積166,000㎡あり2番目、テナント店こそ他より246店とやや少なめだが、駐車台数約3,500台は、最も少ないC海老名1800台の2倍近い。つまり、施設規模から見る限り、最大級のショッピングセンターである。
商圏分析の方法-B
では、物件の商圏はどうか。ここでは事前発表されている「10km圏」ではなく、もっと施設売上への影響度が高くなる「5km圏」で比較する(図3)。
すると人口(※1)は、353(千人)とA川崎のほぼ3分の1と最も少ない。人口増加率(※2)においても同様であり、既存施設が2~6%と比較的高い中、本物件は1%を切る。
地域住民の”購買力”を小売業年間販売額(小売額:※3)を使って比較しても、3839億円は、既存施設の4279~9912億円と比べて見劣りする。
A川崎とC海老名はいずれも駅隣接である。一日平均乗降数が536千人の川崎駅、248千人の海老名駅に隣接して開発できたことは極めて異例とも言える。その分、駐車台数は2000台程度に抑えられる。反対に、駅まで500mしか距離がないものの鶴見川などで事実上鉄道での来店が難しいB横浜は、その2.5倍、4824台の駐車場を確保している。
では、本物件ではどうか。駅まで直線距離で1km弱あるため、鉄道での来店を多く期待するわけには行かない。いきおい自動車での来店を期待することになり、駐車数3500台は最低限不可欠な数と言えよう。
とまれ、既存施設と比較してくると、他より小さなマーケット、ハンディを負う立地でで、最大級のショッピングセンターを開業させたことになる。この勝算はどこにあるのか、
商圏分析の方法-C
人口(5km圏)は353千人であるが、年齢別にはどうか、将来はどうか?
年齢別で見ると(図5)、団塊の世代(60~69歳)と団塊の世代ジュニア(35~44歳)にピークを持つ典型的な人口ピラミッドである。
ただし、詳細に見るならば、団塊の世代以上の高齢者が神奈川県平均よりも男女ともに微妙に多い。また、20~44歳代がやや少ないものの、0~19歳代は同平均とほぼ同じである。
商圏分析の方法-D
一方、将来人口を予測すると(※4)、早くも2015年には人口減少が始まり、2035年には、2010年比7.6%減少することが分かった(図6)。
商圏分析の方法-E
事実、平塚市の住民基本台帳人口よれば、2010年を境に毎月人口が減り続けている(図7)。
(生産年齢人口[15~64歳]はさらに激しく18.9%減少する)。
とは言え、この人口減少・生産年齢人口の減少は全国的な傾向であり、とりわけ驚くには値しない。
商圏分析の方法-F
[商圏の拡大要因と分断要因]
本物件の最大の強みは、人口が集中する平塚駅周辺の人々を確実に顧客化できることにある。人々が行動する方向をシミュレーションした”行動ベクトル”を視覚化した図8を見れば物件の南側(平塚駅周辺)における行動ベクトルはすべて物件に向かっている。
日常的に向かう行動方向が物件前ないし近くを通るのであるから、物件についての認知度も利用度も高くなるのは言うまでもない。これで商圏の南および西地域は確実な商圏になりうる。また、西側には遠く小田原方面まで10km以上拡大する可能性がある。
これに対して、物件のすぐ東側1kmには南北に相模川(川幅500m)が流れており、これが自然の分断要因となることは明らかである。また、隣りの茅ケ崎市からの行動ベクトルは物件方向とは反対になっている。この2つの要因から茅ケ崎市からの顧客誘導は難しいことが伺える。
以上を考慮にいれた1次商圏は図9のようになると推測できる。
商圏分析の方法-G
[1次商圏内の特徴]
人口や年齢別人口、人口予測はこれまでとほぼ同じであるから省く。
300万円未満の世帯比率が県平均より顕著に高い(図10)。
これに対して、900万円以上は低い。ということは、高付加価値、高単価の商品・サービスに偏る商品政策は好ましくないことを示している。
商圏分析の方法-H
自家用車の利用率がきわめて大きい。これは、前述の既存施設と比べると一層際立つ。
A川崎とB横浜の主たる交通手段は鉄道であり、C海老名では鉄道と自家用車がほぼ同じ比率である。これらに対して、物件では自家用車の利用が最も高い(図11)。
これは、昔から工場が多く、産業上の必要性から鉄道と道路の立体交差化が進んでいたこと、東西にも南北にも道路が発達したこと、結果的にどこに向かうにもアクセスが良いとと無関係でない。すると、本物件では、B横浜より駐車場が多くても良いくらいである。
[食品館イトーヨーカドーの競合店]
5km圏内に確認できる食品スーパーは62店。単純計算すると1店当たりの支持人口は5690人ときわめて少ない。コンビニエンスストアの全国平均が2000人前後であるが、この3倍にも満たず、食品スーパーとして明らかに出店過剰である。いかに競合他社から顧客を奪って来れる圧倒的な業態力をつけているかが試される。
ちなみに、A川崎では食品スーパーの数は136店(支持人口7590人)、B横浜で64店(同8984人)、C海老名で51店(7550人)である。既存施設と比べても厳しい。
商圏分析の方法-I
この商圏では、「高齢単身世帯」が急速に増えている(10年で約2倍、図13)ことから、
こうした高齢単身者向けの商品ラインナップを無視することはできない。ただし、物件のような大型ショッピングセンターともなると、自動車での来店がメインとなり、反面、徒歩来店・自転車来店が難しくなる。積極的な高齢単身者の取り込み・顧客化が待たれる。
[総じて]
物件は、平塚駅から1kmも離れておらず、かつ、駅周辺住民が自動車などで容易に行ける場所にある。そのため、平塚駅周辺(南地域)や西地域から多くの顧客来店を期待できると言える。しかしながら、商圏の拡がりという観点からは、東の茅ケ崎周辺とは相模川によって完全に分断されているばかりか、人口そのものが減少に転じており、将来的な発展性は難しい。加えて、食品スーパーにおいては競合状況がきわめて深刻な状況にあり他店を差別化できる強い業態力が望まれる。
物件での最大の強みは、駐車場の広さであり、自家用車利用で商圏が西へ大きく伸びる可能性が高いことである。また、物件周辺には徒歩、自転車を含め既存の交通手段では来店困難な高齢単身者が急速に増えている点にもマーケティングとして着目する必要がある。
※1 国勢調査2010年
※2 人口増加率=(人口2010年 ÷ 人口2005年‐1)×100
※3 商業統計調査2007年
※4 1995~2010年の国勢調査をもとにコーホート変化率法を用いて予測した。